ポルシェは、いつの時代も俊敏さを身上とする「NAモデル」と圧倒的なパワーを誇る「ターボモデル」を揃えています。RSに対するターボという図式は、Type930/964/993といった空冷エンジン時代を経て、水冷DOHCエンジンを搭載する時代になっても変わっていません。
Type996/997GT3はかつてのRSほどスパルタンではないですが、“グランツーリスモ”と解釈するにはサーキットのDNAを持ちすぎています。そこで今回は、長い時間をかけてサーキットで生まれ育ったエンジン「GT3」についてご紹介します。
市販車用のスポーツエンジンとして生産した「GT3」のルーツ
Type996GT3に搭載されるM96-76型の直近のルーツは、1996年のルマン24時間レースに参戦するためにType993に搭載されていたM64-05型をベースに開発したLM-GT1規定のレーシングカーに搭載されたエンジンともいえます。しかし、もとを辿れば1978年に登場したレーシングポルシェ用の3.2Lの排気量を持つ938/71型と2.14Lの935/73型にあります。
このエンジンは、高出力化にともなって発生する大きな熱量にシリンダーヘッド周辺が耐えきれなくなり、空冷方式の限界がみえたことで、さらなる高出力化と信頼性を同時に成立させるために、SOHC2バルブ→DOHC4バルブへの動弁機構の進化に加え、シリンダーヘッドの水冷化がはかられています。
その後、エンジンは935/76型へと進化し、最終的にはボッシュモトロニックMP1.2で制御される935/82型となります。期待された935/82型でしたが、高出力化にともなう発熱処理の問題がふたたび起こり、もはや解決策はシンダーブロックを含めた全水冷方式のエンジンへの進化しかなく、完成したのが1986年の935/83型です。
このエンジンを搭載したレーシングポルシェ962は、80年代のレーシングシーンで活躍しました。
Type996GT3・Type996GT3RS・Type997GT3RSの仕様書
Type996GT3(前期型)
エンジン形式 | 水冷水平対向エンジン6気筒DOHC |
---|---|
エンジン型式 | M96-76 |
総排気量 | 3600cc |
ボア×ストローク | 100.0×76.4mm |
圧縮比 | 11.7:1 |
最高出力 | 360ps/7200rpm |
最大トルク | 37.7kg-m/5000rpm |
Type996GT3(後期型)
エンジン形式 | 水冷水平対向エンジン6気筒DOHC |
---|---|
エンジン型式 | M96-77 |
総排気量 | 3600cc |
ボア×ストローク | 100.0×76.4mm |
圧縮比 | 11.7:1 |
最高出力 | 318ps/7400rpm |
最大トルク | 39.5kg-m/5000rpm |
Type996GT3RS
エンジン形式 | 水冷水平対向エンジン6気筒DOHC |
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エンジン型式 | M96-76/77 |
総排気量 | 3600cc |
ボア×ストローク | 100.0×76.4mm |
圧縮比 | 11.7:1 |
最高出力 | 381ps/7400rpm |
最大トルク | 39.3kg-m/6300rpm |
Type997GT3RS(前期型)
エンジン形式 | 水冷水平対向エンジン6気筒DOHC |
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エンジン型式 | M97-76 |
総排気量 | 3600cc |
ボア×ストローク | 100.0×76.4mm |
圧縮比 | 12.0:1 |
最高出力 | 415ps/7600rpm |
最大トルク | 41.3kg-m/5500rpm |
Type997GT3RS(後期型)
エンジン形式 | 水冷水平対向エンジン6気筒DOHC |
---|---|
エンジン型式 | M97-77 |
総排気量 | 3600cc |
ボア×ストローク | 100.0×76.4mm |
圧縮比 | 12.0:1 |
最高出力 | 415ps/7600rpm |
最大トルク | 41.3kg-m/5500rpm |
細かい制御メッシュが魅力のType997GT3
最新のポルシェには、ドライバーとECU(エンジンコントロールユニット)との意思疎通のメッシュを細かくした電子デバイスが搭載されています。サーキットでの転舵スピードと転舵角、Gセンサーでヨーレートを演算した結果のPTVplusがもたらすタイヤとの接地荷重指示は、ドライバーの頑張りに遠く及ばないレベルにまで到達しています。しかし、ドライバーはリカバリーを試み、それが成功したときに無上の快楽を味わえます。
サーキットを走る際、ライバルよりも先を走ることが一義であるレースであれば、手段を択ばず1mmでも先にゴールラインを跨ぐことに意義があります。しかし、サーキットで車との対話を非日常的なスピード域のなかで愉しむ場合には、そのスタンスは異なります。
その意味で、Type997GT3の電子デバイスは、ECU/アクチュエーターと人間との距離感が頃合いのように思われます。Type996GT3は、ドライバーの意思がECU/アクチュエーターの意思を受けつけない部分がまだ多いですが、Type997GT3は計算された機械の動きが介入してきます。車をコントロールする主役はドライバーです。そういう視点でみれば、程度のいいType997GT3は最高の遊び道具といえるでしょう。
- 笹本健次 PORSCHE 株式会社企画室ネコ 昭和60年3月10日発行
- 西ヶ谷周二 ドイツ車のデザイン 2011年1月28日発行
- 中西一雄 水冷ポルシェ・パーフェクトブック 2018年2月5日
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