ボルボV60のボディについて

1927年に自動車会社としてスタートしたボルボ。最初に理念として掲げられたのが、「クルマは人によって運転され、使用される。したがって、ボルボの設計の基本は、常に『安全』でなければならない」というものでした。

ボルボV60のボディはUHSS(極超高張力鋼板)が衝撃時のキャビンを守っている!

黒のボルボ「V60」

重傷死亡事故の約5%を大型獣との衝突が占めるスウェーデンでは、現実問題としてヘラジカと衝突する可能性があります。

ヘラジカの成獣は体重800㎏にもなるため、軽自動車と衝突したくらいの衝撃エネルギーがあり、体高が2.5~3mに達するので、胴体部分はボンネットを跳び越えて、直接キャノピーに突っ込んで来きます。それを想定した“エルククラッシュテスト”の映像は、なかなか衝撃的なものです。

しかも、ステアリングで無理矢理回避しようとすれば、待っているのは路外逸脱。スウェーデンの郊外路は、森林の丘陵地帯を貫く一本道が多く、ガードレールが整備されていない場所がほとんどです。実際、重傷死亡事故の最大要因が路外逸脱で、約34%を占めています。

このような特異性は、ボルボのボディ設計にもよく現れています。UHSSがロールケージのように配置されているのです。UHSSの使用にはフォルクスワーゲン・アウディグループも積極的ですが、それでもBピラーから後席の上あたりまでで、Cピラーまで使用しているのはボルボぐらいではないでしょうか。

ちなみにUHSSとは、炭素鋼板に微量のクロムやニッケル、ホウ素(ボロン)を混ぜ、焼き入れを行うことで強度を高めた鋼板のことです。フェンダーやドア外板に使用されるMS(通常鋼板)の降伏点が180MPa、引張り強さが270MPa前後であるのに対し、UHSSはそれぞれ1200/1500MPaに達します。

これをロールケージのように使用すれば、路外逸脱で横転したときにもキャビンは守られます。ヘラジカと衝突した場合、フロントガラスはほぼ無防備になってしまいますが、大きな体の一部でもAピラーが支えてくれれば、少なくとも被害の軽減にはなるのです。

UHSSの欠点は、強度が高すぎて加工性が悪いため、コストが高くなること。常温でプレスしても、金型から外すと戻ってしまって設計通りの形にならない、あるいは割れてしまって製品にならないといったことが起こります。

その対策として、素材の鋼板を約800℃に加熱して柔らかくしておき、金型でプレスしたまま急冷して焼き入れする必要があるため、設備が非常に大がかりになっています。これをボディ全体の約33%に使用しているので、車両価格が多少高いのも納得です。

しかし、日本では大型獣といえば鹿とヒグマぐらいです。ガードレールの整備率も高いため、メリットは少ないのでは?と疑問になるかもしれませんが、キャビンが強ければ、前突や側突、追突への耐力も同時に高まります。

何より最近は、過積載のトラックが横転して乗用車を押し潰したり、台風で横転したトラックの下敷きになったりする事故が実際に起きています。レアケースとはいえ、そういった事故を見ると、日本でもあながち無駄とはいえないかもしれません。

V60とXC60との比較

V60のアンダーボディは、SUVのXC60とほぼ共通しています。後席下やリヤサスまわりの補強の入れ方や、使用する鋼材に若干の違いが見て取れますが、Bピラーから前はほとんど同じです。

V60のボディ構造で特徴的なのは、エンジンルームまわりの骨格が非常にごつい点です。特に、国産車ならフェンダーの峰を支える程度の機能しか持たせないアッパーサイドメンバーが前端まで太く、衝撃吸収部材として積極的に使用しているのがわかります。前面衝突時には、これを腕立て伏せの腕を曲げるように座屈させ、衝突エネルギーを吸収。前突エネルギー吸収の要となるサイドメンバーも非常に太く、そこにつながるダッシュパネルもUHSSで強化されています。

XC60と異なる点は、アッパーサイドメンバーにVHSSが使用されていること。車重の重いXC60こそ高強度材が必要そうに思えますが、そこは剛性とのバランスを取った結果ではないかと思います。高強度材を使用する目的は、素材の強度を高めた分、板厚を薄くして軽量化を図るためですが、薄くすると剛性が低下してしまいます。“強度”と“剛性”は別の概念で、同じ鋼材で作ったバネでも、線形が細ければ柔らかいのと同じ理屈です。

この部分は、フロントのサスタワーを外側から支持する役目も担っており、車重に応じた剛性の確保は必須となります。XC60の場合、剛性面から板厚を確保する必要があり、高強度材を使用しても軽量化効果がない、ということかもしれません。

同様のことは、リヤまわりにもいえます。ワゴンボディの弱点となりやすいバックドア開口まわりや、スタビリティの要となるリヤサスまわりの骨格は、極端には強度の高くないHSSを使用しています。この部分も同様に、剛性面から板厚の確保が必要であり、高強度材を使用しても軽量化効果が見込めないからです。

そしてもう一つ、SPAを採用した新型V60のボディの特徴は、鋼板とアルミ合金を組み合わせたハイブリッドボディである点です。アルミ合金は、フロントバンパービームとクラッシュボックス、フロントのサスタワーまわりに使用されています。アルミの比重は鉄の3分の1なので、アルミを使用すれば軽量化できるのは自明の理です。それを重心から遠いフロントバンパーまわりに使用することで、単に軽くなるだけでなく、ヨー慣性モーメントが減ってハンドリングがスムーズになります。

フロントサスタワー部への使用は、サスペンションの支持剛性向上にもつながっています。素材自身の剛性値は、アルミは鋼の3分の1しかありませんが、ダイキャスト製法を用いることで、鋼板なら溶接で貼り合わせる部分が一体成形で作れます。補強リブも、金型が抜ける形状である限り自在に入れられるため、効率よく剛性が確保できます。これは、欧州のプレミアムカ―ではすでにトレンドとなっている技術です。

  1. 星野邦久 ボルボV60のすべて 株式会社三栄書房 平成30年12月1日発行
会社名
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ジョイカル京都西店
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